現代版三方よし・CSV論 -10-

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しばらく、「CSV」という考え方について紹介していきます。

「CSV」とは「Creating Shared Value(共通価値の創造)」の略。
資料として用いるのは、
『Diamondハーバード・ビジネス・レビュー(以下「資料」と表記)』の2011年6月号。

今回は、規制(法律)と共通価値についてふれます。

前提:コーポレートガバナンスに関する規制は、基本的に対象外

オリンパス事件や大王製紙事件があったので、

「やはり企業は規制でがんじがらめにしないと、何するかわからん!」

と感情的になりがちですが、
オリンパス事件や大王製紙事件の問題は、
コーポレートガバナンス(企業統治)についての問題。

コーポレートガバナンスについてはこちらを参照下さい。
http://www.aoyamaoffice.jp/school/kaikeischool/kigyoutouti.htm

ポーターが考えようとする、規制(法律)と共通価値のあり方には、
基本的にはコーポレートガバナンスは含まれていないんじゃないかと、
個人的には思います。

少なくとも、ポーターが考えている、
規制(法律)と共通価値との関わりは、
企業内部のあり方というよりは、
企業と社会との関連において、と考えたほうがすっきりします。

環境問題や健康問題といった、
そう、以前紹介した「外部性」との関連ですね。

ですので、コーポレートガバナンスのために、
どの程度の規制が必要なのかは、ここでは考えません。
上記リンクを参照ください。

もう少し詳しくコーポレートガバナンスとか、
株式会社そもそも論を考えたい方は、
こちらの本がオススメです!

『そもそも株式会社とは』(ちくま新書) 岩田 規久男 (著)

適切な規制は、共通価値の増大につながる

ポーターは、

「政府の規制が適切なものであれば、
企業は共通価値の追求に邁進できる。

一方、およそ適切とはいえない規制の場合、
これを妨げるばかりか、経済的目標と社会的目標との間に、
トレードオフを生じさせる」(P28)

と記載しています。
ポーターは、適切な規制というものがある、といってます。

適切な規制、適切でない規制について、
それぞれの特徴を触れましょう。

<適切な規制の特徴>

・最終目標がある
・イノベーションを喚起する力がある
・社会目的を強調し、企業が短期利益の最大化ではなく、
共通価値に投資するよう、公正な競争環境を整える。

<適切でない規制の特徴>

・測定できるかたちで社会を改善することよりも、
特定の慣行を遵守することを強いる
・基準に適合させるために特定の手法を義務付ける。
・イノベーションが阻まれ、
企業はずっとコストを負担しなければならない。

ポーターは、政府がこの種の規制をつくるという罠にはまると、

「本来求めていた進歩も後退に変わるだけでなく、
進歩の停滞を嫌う企業から激しい抵抗が起こり、
競争力を高めるはずの共通価値もその創出が阻害される」(P28)

と記載しています。

適切な規制の5つのポイント

ポーターは、適切な規制が持つ、
5つのポイントを次のように記載しています。

1.具体的で測定可能な社会的目標を掲げる

2.業績評価基準を設定するが、それを実現する方法は決めない
実現する方法は、企業に委ねる。

3.業績評価基準に向けた、段階的な移行期間を決める
企業が、自社事業の経済性に見合った方法で、
新しい方法やプロセスを開発・導入する時間を確保できるように。

4.共通の評価システム、業績報告システムがある。
政府は、信頼性の高いベンチマークデータを収集するための
インフラ整備に投資する。

5.手間とコストのかかるコンプライアンスシステムを例外なく課すのではなく、
効果的かつタイムリーな結果報告を求める。

個人的に、日本人にとっての「適切な規制」の事例として、
マスキー法を挙げるのがよいかと思っています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B0%97%E6%B5%84%E5%8C%96%E6%B3%95

マスキー法とは、アメリカでの大気浄化法・1970年改訂版の通称。
内容としては

・1975年以降に製造する自動車の排気ガス中の、
一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の排出量を
1970-1971年型の1/10以下にする。

・1976年以降に製造する自動車の排気ガス中の、
窒素酸化物(NOx)の排出量を、
1970-1971年型の1/10以下にする。

という、当時世界一厳しいといわれ、
クリアするのは不可能とまで言われたものでした。

アメリカでは、当然、自動車メーカー側からの反発も激しく、
実施期限を待たずして74年に廃案となってしまったマスキー法。

しかし、日本では、
ホンダが1972年にCVCCエンジンを開発してマスキー法をクリア。
1978年には、「昭和53年規制」という、マスキー法と同基準の規制が、
全ての自動車メーカーに実施されることになります。

このときのエンジン技術の研究開発が、
その後の日本車の低燃費、信頼性向上に役立ったといわれています。

まさに、規制によって「イノベーションを喚起」したわけです。

ポーターの5つのポイントを踏まえて、
再度マスキー法をみてみましょう。

1.具体的で測定可能な社会的目標を掲げる

→この点では、マスキー法は「適切な規制」といえます。
「1970-1971年型の1/10以下」は具体的で測定可能ですよね。

2.業績評価基準を設定するが、それを実現する方法は決めない

→この点でも、マスキー法は「適切な規制」といえます。
もし、「CVCCエンジンを搭載しなければならない」といった規制だと、
イノベーションは喚起されません。

3.業績評価基準に向けた、段階的な移行期間を決める

→この点では、マスキー法は失敗だったといえます。
現実的には、「1970-1971年型の1/10以下」に向けて、

「1976年までには1/5以下→1981年には1/10以下」

といった段階的な移行期間を決めれば、
また違った結果になったかもしれません。

4.共通の評価システム、業績報告システムがある。
政府は、信頼性の高いベンチマークデータを収集するための
インフラ整備に投資する。

→アメリカの大気浄化法は、その点ではザル法といわれています。
評価システム、業績報告システムがなく、
新車登録を済ませてしまえば後は、
違法改造されてもまず検挙されることはありません。

その点で日本の「昭和53年規制」は、
車検制度が「共通の評価システム、業績報告システム」を担っています。

5.手間とコストのかかるコンプライアンスシステムを例外なく課すのではなく、
効果的かつタイムリーな結果報告を求める。

→マスキー方でのチェックシステムに詳しくないため、
可否を断定はできませんが、

「エンジンができたら結果報告して、基準クリアしたら良し」

ということであれば、
「コンプライアンスシステムを例外なく課す」とは違うのかな、
と思います。

イノベーションに優しい規制

共通価値について記載した個所ではないのですが、
資料の別の記事で、

「環境、イノベーション、競争優位」というものがあり、
その中で「イノベーションに優しい規制」というのがありましたので、
参考までに紹介します。

・技術ではなく結果に着目する

「CVCCエンジン搭載義務付け」ではなく「1970-1971年型の1/10以下」

・緩い規制ではなく厳しい規制を求める

「1970-1971年型の1%程度削減」だと、小手先で何とでもなります。
本質的なイノベーションは出てきません。

・できるだけエンドユーザーに近いところで規制しながら、
上流のソリューションを促す

環境汚染の場合、「工場廃液の浄化」への規制よりも、
「そもそも有害廃棄物の排出量が少ない機械」についての規制のほうが、
長期的にコスト減。

・移行期間を設ける

移行期間が短いと、企業はイノベーションへの意欲よりも、
往々にして規制に対するロビー活動、
あるいは規制地域からの撤退を起こしやすくなります。

・市場インセンティブを用いる

排出権取引制度や炭素税の導入、など。

・関連分野の規制と足並みをそろえる

ポーターの例では、

「オゾン層を破壊する恐れのある冷却材への規制のためには、代替品として、
少量のプロパンおよびブタンで置き換えるのが一つの方法だが、
これらのガスについての窮屈な安全規制があり、
冷却材への規制も阻まれてしまった」(P144)

・他国と同時に、または少しだけ先んじて規制を策定する

まだ同じ基準を課されていない外国企業に比べて、
競争が不利になる可能性をできる限り小さくすること。

また、先を行き過ぎたり、外国企業に適用される基準と性格が違いすぎると、
誤った方向のイノベーションにつながりかねません。

日本の場合、「親方日の丸」で規制を策定しがちなので、
往々にして誤った方向のイノベーションにいきがちです。

・規制プロセスを予測可能で安定的なものにする

たとえば規制当局が

「現行基準を5年間据え置く」と約束し、それを守れば、

企業側も規制当局の方針転換に対して予防策を講じるのではなく、
根本的なソリューションにじっくり取り組むことができます。

方針がころころ変わるのは最悪ですね。

・業界を最初から基準策定に参加させる

別に、これは「談合のススメ」ではなく、

「業界と規制当局は協力して、相互に信頼できる環境作りに
努めなければならない」(P145)

・規制当局に専門能力を十分つけさせる

業界と規制当局が密に情報交換することで、

「無知な企業が法律家やコンサルタントを使って、
無知な規制当局のつくったおかしな規制を引き伸ばそうとする、
そんな無駄な現象を回避できる」(P145)

この手の「無駄な現象」は、あちこちに転がってそう……

・規制によるプロセス自体に費やす時間や資源を最小化する

「正式な承認には1年かかります」なんていわれたら、
企業にとってはその間大変ですよね。

次回は、長々続いてきたCSV論のまとめに入ります。

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