近江商人の商人道を考える -2-

さて、今回は前回に引き続き、
近江商人の経営理念を紹介していきます。

今回取り上げるのは「正当な利益」という考え方。

この考え方が成り立つには、次の2つの前提がクリアされている必要があります。

(1)「利益をあげることそれ自体」が正当である、後ろめたいものではない
(2)「正当な利益」と「正当でない利益」がある

まず(1)の考え方について。

現在でも、「金儲け」というと、なんか後ろめたいイメージを持つ人が多いです。
まして、近江商人が主に活躍した江戸時代では、
「金儲けに携わる人」は、はっきりと、明確に一番下の身分におかれました。
ほら、「士農工商」ですから。

まぁ、この傾向は日本に限ったことでもなく、
ヨーロッパでも商人、特に金貸しは尊敬はされてなかった。
金貸しなんて、卑しい人種(ユダヤ人)がやればいいという風潮だった。

さて、そんな中で登場したのが、石田梅岩という人が編み出した「石門心学」。

「石門心学」のポイントは、

1)「商取引が卑しいもの」というのが常識だったときに、
2) 儒教や仏教、日本古来の神道思想といった「宗教性」をベースとし、
3)「勤勉と倹約を前提とした商取引」を行うことは、
4)「実に正しい、永続的な幸せに至る道」である、と説いた

といった点でしょうかね。

おぉ~っ。カルヴァン主義商業倫理について分析した、
マックス=ウェーバーもびっくりの内容だ。

書いてることは、カルヴァン主義商業倫理の根底とほとんど変わらない。
宗教がキリスト教か儒教等かの違いくらいですな。

石門心学を心のよりどころにした近江商人が活躍したのも、
カルヴァン派の人たちが(イギリスやアメリカ人)が活躍したのも、
根底としているところは一緒、ということになりますね。

さて、ここまで書くと、
(2)の「正当な利益」と「正当でない利益」の違いも、
明確になってきます。

ここは、『近江商人学入門 -CSRの源流「三方よし」-(末永國紀著)』から、
引用してみましょう。

「蒲生郡日野町出身の二代目中井源左衛門光昌によって作成されたとされる、
『中氏制要』という家訓は、正当な利益について次のような所感を述べている。

『人生は勤(つとむ)るにあり。勤ればすなわち乏しからずと、
勤るは利の本なり、よく勤めておのずから得るは、真の利なり』」

「ここには、勤勉な人生を前提にして、
まっとうに勤勉に働けば収入の不足のため生活に苦労することはなく、
勤勉の結果として得えた利益こそが、
誰はばかることのない真の利益であるという考え方が示されている。」

「同じ利益でも、相場を張ったり買い置きをしたり、
他人の難儀を顧みないで得た利益は、
真の利益ではないので、家業長久をもたらすものではない。」

「欲望をコントロールせずに野放しにすれば、
利益は道理に外れたものとなり、
いつか大きな禍を招くことになると諭している。(引用全てP70)」

現在流に言えば、

・株やFX、先物取引とかで儲けても、すぐに消えてしまう

・宝くじがあたっても、すぐに身を持ち崩してしまう

・商品偽装とかやってても、お客様に迷惑がかかるだけだから、
そんなの長続きしない

といったところでしょうか。

最初の2つの考え方については、

「お金に色なんてついてるわけないんだから、

勤勉と倹約で貯めた1億円と、宝くじで当てた1億円と、
株やFX等の資産運用で儲けた1億円とは、

1億円という価値そのものについては、何ら変わらない」

という反論をお持ちの方も、多いと思います。

しかし、人間の心理は、そうではないのです。

人間、幸運で得た利得については、
ハイリスクの投資をしたりするなど、
リスクを顧みない、使い方が荒くなってしまう心理的傾向があり、
それを「ハウスマネー効果」といいます。

じゃあ、勤勉と倹約で貯めた方が、慎重に、かつ賢く運用できる。
近江商人の言ってることは、
人間心理に基づけば、合理的といえます。

ちなみに、逆に、
一度失敗すると、失敗を恐れて
必要以上にリスクをとらない心理的傾向を、
「スネークバイト効果」といいます。

「とにかく勤勉して消費せずに貯める、というのは、
近江商人みんな、スネークバイト効果に陥っているだけじゃないの?」

というツッコミもありそうですね。
まぁ、今の日本の状況は、かなりそんな状態だと思います。

しかし、近江商人は「始末して、きばる」を信条として、
商取引を行っていた人々。

この言葉は、

・勤勉と倹約を重視しつつ、かつ本気で取り組むべき時は、戦略的に大胆に
・日々損したか得したかを、きちんと認識しておく

といったニュアンスが、込められているようです。

要は、普段は引き締め経営を行いつつ、
戦略的に重要なところでは、リスクを恐れない、
といったところでしょうか。

こうしてみると、近江商人のあり方は、

きわめて長期的合理性を重視し、
かつ人間心理に精通した経営を行っていた、
ということがいえそうです。

次回は、近江商人にとっての積極的CSRとして、
「隠匿善事」という考え方を取り上げていきます。

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